更年期について
ほとんどの女性は45~55歳頃に生理がなくなる閉経を迎えます。この閉経前後の5年間が更年期です。閉経に向かって女性ホルモンの分泌量が大きく揺らぎながら低下していくため、ホルモンバランスが乱れて心身にさまざまな不調を起こしやすくなっています。また、閉経後は、卵巣からの女性ホルモンの分泌がなくなるため、骨粗鬆症による骨折や脂質異常症による血栓症の発症・悪化リスクがとても高くなってしまいますし、代謝が衰えて骨や血管、筋肉、粘膜なども老化していきます。更年期をどう過ごすかによって、その後も元気に若々しく過ごせるかが大きく変わってきます。女性の平均寿命は87歳です。当院では、閉経してから30~40年の人生を健康に快適に過ごせるようにサポートする診療を行っています。お悩みやご不安がありましたら、お気軽にいらしてください。
更年期障害
閉経前後の5年間の更年期には女性ホルモンの分泌量が低下していきますが、その揺らぎが大きいため心身にさまざまな不調を起こしやすくなっています。気温に関わらず突然、滝のような汗が出る、顔や身体がほてる、のぼせるというホットフラッシュをはじめ、慢性的な頭痛や肩こり、睡眠障害、イライラ、不安や落ち込みなど幅広い症状が起こり、症状の内容や強さは個人差がとても大きくなっています。更年期にこうした症状が起こって生活に支障が生じている状態が更年期障害です。こうした症状は適切な治療で上手にコントロールすることが可能であり、症状を軽減することができます。閉経後の老化スピードを和らげるために、そして閉経後にリスクが高くなる疾患の予防のためにも、更年期のケアは重要です。更年期でつらい症状、気になることがありましたら、早めに受診してください。
症状
心身に多彩な症状が現れ、内容や強さも患者様によって大きく変わります。代表的な症状には、ホットフラッシュ(ほてりや大量の発汗)、慢性的な頭痛・肩こり・腰痛、冷え、倦怠感、睡眠障害、不安などがあります。
症状は、自律神経系・精神神経系・その他に分けることができます。こうした症状が起こる原因には、エストロゲンという女性ホルモンの不足が大きく関わっています。
自律神経系の症状
自律神経のバランスが崩れて、自律神経によってコントロールされている呼吸・血液循環・消化・体温調節・内分泌の働きが乱れて幅広い症状を起こします。血液循環が乱れて起こるホットフラッシュは、自律神経系の代表的な症状です。
精神神経系の症状
感情をうまく制御できなくなって症状を起こします。イライラ、うつ状態、怒りを抑えられない易怒性と反動で生じる不安や落ち込みなどです。
その他の症状
痛みなどの運動器障害、食欲不振などの消化器症状です。
セルフチェック
更年期障害は、早めに受診して適切な治療を受けることが重要です。女性の40~60歳代は社会的にも、家庭内でも責任ある立場になっていることが多く、日常生活に支障のある更年期障害の症状を抱えたままでは心身への負担が大きくなり過ぎてしまいます。快適に過ごし、その後の老化スピードを遅くしていつまでも元気に過ごすためには、更年期の時期にご自分をしっかりケアすることが不可欠です。
更年期障害は治療で症状の緩和が可能です。更年期だからしかたないとあきらめてしまわず、つらい症状があったら婦人科を受診してください。
簡易更年期指数(SMI)チェック表
症状の程度を自己判断して点数を記入し、合計を出してください。
症状の項目に複数の症状がリストになっていて、複数が当てはまる場合には、最も強い症状で判断してその点数を記入します。
強 | 中 | 弱 | 無 | |
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顔がほてる | 10 | 6 | 3 | 0 |
汗をかきやすい | 10 | 6 | 3 | 0 |
腰や手足が冷えやすい | 14 | 9 | 5 | 0 |
息切れ、動悸がする | 12 | 8 | 4 | 0 |
寝つきが悪い、または眠りが浅い | 14 | 9 | 5 | 0 |
怒りやすく、すぐイライラする | 12 | 8 | 4 | 0 |
くよくよしたり、憂うつになることがある | 7 | 5 | 3 | 0 |
頭痛、めまい、吐き気がよくある | 7 | 5 | 3 | 0 |
疲れやすい | 7 | 4 | 3 | 0 |
肩こり、腰痛、手足の痛みがある | 7 | 5 | 3 | 0 |
簡易更年期指数の自己採点評価
上記の合計点が、簡易更年期指数の自己採点評価となります。
0~25点 | 特に問題がありません。この状態を守っていきましょう。この場合も、閉経後に起こる骨粗鬆症や脂質異常症の検査を定期的に受けて、予防につなげることが重要です。 |
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26~50点 | 食事内容や軽い運動の習慣化などによって、より快適に更年期を過ごし、将来の老化スピードを緩和させる効果が期待できます。無理なく楽しみながら行える範囲で実施していきましょう。 |
51~65点 | 婦人科を受診して、快適な生活を取り戻しましょう。 |
66~80点 | できるだけ早く婦人科を受診して、つらい症状を解消させましょう。 |
81~100点 | 疾患が隠れている可能性もありますので、婦人科を受診して原因を確かめましょう。 |
治療
更年期障害は治療で改善できますので、治療のほとんどは健康保険適用で受けられます。また健康保険適用範囲内の治療で改善効果を十分に得られます。下記でご紹介しているのも、保険診療で受けられる治療法です。
HRT(ホルモン補充療法)
減少する女性ホルモンを補うことで、症状を穏やかに緩和していきます。体質や既往症などにより、エストロゲンのみ、あるいはエストロゲンにプロゲストーゲンを併用して投与します。内服薬以外にも、パッチタイプの貼り薬、塗り薬があり、ライフスタイルや好みなどによって選択できます。
漢方
長い歴史によって培われてきた漢方は、更年期にも高い効果を期待できるものがいくつもあります。体質改善によって複数の症状改善につながるもの、症状が変化するケースにも有効なものなどがあるため、患者様のお悩みやご希望に合わせた処方が可能です。当院で処方するほとんどの漢方薬は手軽に服用できるエキス剤です。
その他の薬剤やサプリメント
お気持ちの落ち込みを改善する薬剤、血液検査で不足していることがわかった栄養素などの処方も行っています。強い向精神薬はできるだけ使わず、用いる場合には減らしていくことを前提にした処方を行います。
更年期から閉経後に注意が必要な病気
女性ホルモンは、排卵などをコントロールするだけでなく、女性の身体を健康に保つための働きも担っています。そのため、更年期以降は女性ホルモンの分泌量が大きく低下して、骨粗鬆症や生活習慣病などの発症・進行リスクが上昇してしまいます。更年期を迎えたら、症状の有無に関わらず、こうした病気の予防や進行を抑制する治療を行って、いつまでも若々しく元気で過ごせるようにしましょう。
高血圧・脂質異常症
女性ホルモンは内臓脂肪の分解を促進する働きを持っているため、閉経して卵巣から女性ホルモンが分泌されなくなると総コレステロール・、LDL(悪玉)コレステロール・中性脂肪が増加しますし、HDL(善玉)コレステロールは減少します。そのため、更年期以降には脂質異常症(高脂血症)のリスクが上昇します。また、閉経の時期には血管の抵抗性が上がって動脈硬化の進行スピードが加速し、高血圧になりやすくなります。脂質異常症や高血圧は動脈硬化を進行させてしまうため、心筋梗塞や脳出血などを起こしやすくなってしまいます。特に自覚症状なく進行してしまう脂質異常症には十分な注意が必要です。それまで健康診断で問題がなかった方も、更年期以降はしっかり健康診断を受けて状態を確認しましょう。
骨粗鬆症
骨は分解と再生を繰り返す骨代謝を絶えず行っています。女性ホルモンのエストロゲンは、この骨代謝でもバランスを保つ重要な役割を担っています。更年期を過ぎるとエストロゲンが減少して骨代謝のバランスが崩れて骨量が減少し、閉経後はその進行が早まってしまうケースが多くなっています。そのため、高齢女性には骨粗鬆症が多いのです。骨粗鬆症になると骨量が減って骨折しやすくなりますが、閉経後には年2%のスピ―ドで骨量が減るとされているため、閉経後10年が経過すると骨量が20%も減少しているということになります。骨量が大きく減ってしまうと、身体の重みを受け止めきれずに背骨がつぶれるように骨折して背中が曲がったり、背が縮むこともあります。こうした骨折は特に痛みもなく起こることが多く、「いつのまにか骨折」と呼ばれています。高齢になってからの骨折は寝たきりになる大きな原因のひとつです。更年期や閉経を迎えたら、特に自覚症状がなくても婦人科を受診して骨密度を測定し、早めに治療を開始して十分な骨量をキープしていきましょう。
粘膜の老化
女性ホルモンの分泌量が低下すると、粘膜のバリア機能も低下し、ドライアイやドライマウスなどの症状を起こしやすくなります。ドライアイは慢性的な頭痛や肩こりにもつながりやすい症状ですし、ドライマウスは嚥下障害や誤嚥などを起こして肺炎に結び付くことがあります。膣も乾きやすくなるため、性交痛や萎縮性膣炎などを起こすリスクも上昇します。
消化器機能の老化
消化管は全体が蠕動運動を行っていますが、老化によってこうした機能も低下していきます。蠕動運動の乱れは便秘や下痢など便通異常につながってしまいます。
尿漏れ
過活動膀胱は更年期に多い疾患です。しょっちゅうトイレに行きたくなる、突然強い尿意が起こる、くしゃみなどのちょっとしたことで尿漏れしてしまうなどの症状は、加齢による筋肉や筋膜、靭帯などの衰えによって起こることがよくあります。女性は特に出産などで骨盤底筋にダメージを受けやすいため、加齢をきっかけにそうしたダメージの影響も出やすくなっています。骨盤底筋がゆるむと膀胱や直腸などを支えきれなくなって性器から脱出してしまうこともあります。
糖尿病・動脈硬化
女性ホルモンは血管のしなやかさをキープして、内臓脂肪の分解を促進するため、更年期前には生活習慣病になりにくく、動脈硬化の進行も抑制されます。そのため閉経前の女性は男性に比べて生活習慣病リスクがかなり低くなっています。更年期から閉経と女性ホルモンの分泌量が大幅に減少すると、生活習慣病リスクも上昇してしまいます。それまで受けていた健康診断で問題がなかった場合も、更年期以降には生活習慣病が指摘されることが増えてきます。高血圧、脂質異常症、糖尿病、そしてこうした生活習慣病が進行させる動脈硬化は適切な治療をしないと、ある日突然心筋梗塞や脳出血などを起こし、命に危険が及ぶ可能性がありますし、重大な障害を残すことも考えられます。更年期や閉経後は仕事をリタイアして毎年の健康診断を受けなくなる方が増える年代ですが、更年期や閉経で生活習慣病リスクが上昇してしまう女性はそれ以降の健康診断がとても重要です。当院では、更年期や閉経を迎えた方のお身体をしっかりケアして、健康と快適な生活を守っていくお手伝いをしています。症状の有無に関わらず、ご心配やご不安がありましたらお気軽にご相談ください。